島原セクションハイク Day 2

Kyusyu Maimai Trails

九州自然歩道の起点、福岡県の皿倉山山頂にある元標。長距離自然歩道提唱者ベントン・マッケイの言葉が刻まれている。(写真=一般社団法人 九州自然歩道フォーラム)

九州自然歩道は、九州を一周する総延長2932㎞の道。どこから歩きはじめても、一周回って戻ってこれるロングトレイル。自分が持てるだけの荷物を背負い、ゆっくりと歩いてほしい。カタツムリのシンボルにはそんな想いが込められている。

悩みや心配事は置いて行こう。草木を愛でながらこつこつ歩くと、今まで見えなかったものに気付くかもしれない。歩く旅は、少しずつ確実に前に積み上げていく、ポジティブでクリエイティブな行為だ。さあ、最初の一歩を踏み出そう。

Day 2

道を急いで藪漕ぎ

「モ~」という声で、はっと目を覚ます。そういえば牧場の近くにテントを張ったんだった。

「最高のアラームだね」。凍り付いたテント越しに、さっちゃんの声がした。牛と添い寝したのは夢だったみたい。

2日目は雲仙普賢岳に登る。牧場の里あづまから出発し、千々石断層を歩いて九千部岳の峠へと向かう、高低差があり、距離もあるルートだ。なので午前中までには、雲仙普賢岳の登山口に着いておきたい。まだ名残惜しい、体温を帯びたシュラフをザックに押し込んで出発だ。

朝日が麓を照らし、普賢岳の影が橘湾に落ちる。

手作りの看板に出会い、いきなりショートカットする。しかし、利用者が少ないのだろうか、あるのは獣道だけ。周囲を探しても、他に標識は見当たらない。戻ることも考えたが、ここは先を急ぎたい。GPSを頼りに道なき道を藪漕ぎをすることにした。心配なのは千々和断層との出会い。最大落差が約450mは、踏み外すとひとたまりもない。

なんとなく道の名残を探した部分を、草をかき分けながら慎重に進む。藪漕ぎを楽しむ女子にまとわりつくのはひっつきむし。草にはいつもモテる。

藪を抜けなんとか自然歩道にでる。君に会いたかったんだよ!わずか数時間だったが、道標を抱きしめる。

進むのは、木々の生い茂る暗い道。しかし、薮とは明らかに安心感が違う。当たり前に歩ける、この陰には道を歩き、道を守る人々がいる。この石も、傍に避けられた倒木も、誰かが積み上げ整備したものだ。GPSを辿って踏破した気になっていたが、私たちはその人々に導かれている。そう思うと感謝の気持ちが湧いてきて、振り返って会釈した。

所々に残された手書きの看板が好き。

踏み跡が、きらきらと輝いてみえる。

霧氷に輝く平成の火山

千々石断層の山道を抜けると、そこは田代原野営場。スタートの牧場の里あづまからここまで約5kmほど。藪漕ぎを除けば、アップダウンの少ない道だった。田代原野営場は、九州自然歩道上にあるので、キャンプ場の営業期間はここを拠点にすると便利だろう。九千部岳が見える良いロケーションにあり、トレイルセンターが併設されている。春夏はミヤマキリシマやヤマボウシも見ることができる。

田代原野営場 
山に囲まれた千々石断層上の盆地。高原内にはキャンプ場やトレイルセンターがある。
キャンプ場営業期間 5月1日~10月31日 
tel 0957-78-2331
トレイルセンター 営業期間 5月1日~11月30日
tel 0957-78-0441
雲仙市千々石町田代原

田代原野営場から、標高1062mの九千部岳へ向かう。ルートは二つあり、私たちは緩やかなルートを選択した。途中でデポして九千部岳の山頂に行くこともできる。今回は普賢岳への時間確保のためトラバースする。このルートは、雨の日には川になるような道なので注意が必要だ。

九千部岳を下るとついに見えた、雲仙普賢岳!山頂はうっすらと白い。

まだ登るのか…。と心が折れかけていた時に現われた景色に、いつのまにか早足になっていた。なんと単純。

トンネルの脇に登山口がある。トンネルの上へと歩いていく。

今日はまだ誰も通っていないサクサクの登山道。霜柱を踏みしめる音が心地よい。

標高が上がり周囲も白くなってきたぞ。

ミヤマキリシマも冬化粧。美しさと歩く速度が反比例。

尾根に登りついて振り返ると、辺りは一面の銀世界。もう言葉はいらない。

美しさに気を取られて、国見岳の手前ですでに時刻は15時。雲仙普賢岳を目指していたが、気温が下がってきたので潔く撤退を決断。

とか言いながら、荷物をデポして、国見岳(1347m)山頂を目指す。今日はこれで最後と、元気を取り戻したのも束の間、崖登りや鎖場に尻込み。

国見岳山頂からは、有明海と島原半島が手にとるように眺められる。そして何よりも寒い。風景を肴に何か食べようとするも、どんどんと体温が奪われるので、早々に下山する。

先ほどまであった元気も、優美な景色への感動も、寒さには敵わない。出発時コンビニで買った手袋が薄かった。指はすべて霜焼け。準備不足は楽しみまで奪ってしまうという反省。

下山時に妙見岳を通る。山頂には妙見神社がある。こんな高いところによく建てたものだ。安全な山行ができたのも、私たちを受け入れてくださった山の神さまのお陰。山を愛する先人たちがここにも息づいている。

登山の事故は下山時が多いとされる、ここからも気を抜かず進もう。

ロープウェイ乗り場の展望台に到着。近代的な場所に来て、ちょっとの暖かさと大きな安心感を確保。

赤いゴンドラが向かってくる。乗りたい気持ちが湧いてくるが、ちょっと待て。自分の脚だけで進んだ達成感の方が大事なのではないか。

本日の目的地、雲仙温泉街が遠くに見える。まるでオアシス。

トントン拍子で無事下山!自分の足だけでここまできたのだと誇らしく思ったが、やっぱり乗りたかったロープウェイ。後悔しないことも大事だということを学ぶ。山登りは人生の縮図。

雲仙ロープウェイ 
妙見岳山頂付近では、雲仙の絶景を堪能できる。ミヤマキリシマの鑑賞スポットとしても有名な展望台。
tel 0957-73-3572
雲仙市小浜雲仙551

平成新山は私と同じ年に生まれた山。雲で見え隠れしている。些細なことに揺れ動く私の心をあらわしているようだ。

ほっと一息。ボタン一つであったかい飲み物が出るとは、なんて奇跡なんだろう。お湯は無料だし、店内は暖かい。目的は山でも、この何気ない瞬間を味わいに来ているのかもしれない。冬はHOTドリンクが身に沁みる仁田峠の土産屋、ナショナルパーク・インフォメーション&ショップにて。

温泉と見るだけで浮足立つ!仁田峠から温泉街まで3.2km。脳内は早くも白く煙る湯船の中。

見るだけで体温が2.3度上昇する道標。

きれいに整備された池ノ原園地から振り返る。あゝ、さっきまでいたのに、もう懐かしき雲仙普賢岳よ。

溢れんばかりの期待感を抱えて到着した、今宵のお宿、ゲストハウスのTSUDOI。扉をあけると「おつかれさま!」と、主人の市来さんが待ってくれていた。良い宿には、良い主人がいる。おすすめの温泉や居酒屋を教えてもらい、明日の朝はここでのんびりしようと決意した。

ゲストハウスTSUDOI 
雲仙温泉の真ん中にある、「ヒト・まち・旅をシェアする宿」1階は共有スペースになっている。
長崎県雲仙市小浜町雲仙323-2-2
Tel 0957-60-4225

ゲストハウスに荷物を投げ捨て、走って向かったのは小地獄温泉。閉店ギリギリ滑り込みセーフ。とろりとした白い湯が、冷え切った身体全体に染みていく。氷解。心も身体もぽっかぽか。ここは地獄なのか、天国なのか。今日はきっと牛が出てこない、いい夢をみるに違いない。

小地獄温泉
営業時間 9:30〜19:00
大人460円 小学生以下230円/3歳以下無料

Day3へ続く

島原セクションハイクの全行程


計画に役立つ関連サイト

九州自然歩道ポータル
全ルートの「ハイカーズマップ」を公開。データが重いので表示に時間がかかる場合あり。

環境省「長距離自然歩道を歩こう」
環境省の国立公園ポータルサイト内にある日本全国の長距離自然歩道を紹介するページ。

九州自然歩道フォーラム
九州の豊かな自然、歴史、文化、人をつなぐ、ナショナル・ロングトレイルの実現を目指して、設立した個人及び団体のネットワーク。

原田 優

福岡県出身。中学校の国語教師を5年で退職。ふらりと始めた九州自然歩道のセクションハイクをきっかけに、ロングトレイルの面白さに目覚める。現在はフリースクールやカフェで働く傍ら、ロングトレイルライターとしても活動中。

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